「俺、不味いラーメン屋って聞くとついつい確かめに行きたくなるんだよね」
ハンドル片手に運転席の坂井(仮名)さんが言いました。
「実際不味い店ありました?」
「うん、何軒か知ってるよ。前に行ったところは、プラスチックの味がするラーメンだったよ。なんでなのかな、ほんとにプラスチックみたいな味がするの。(ダッシュボードを指差しながら)この辺でダシ取りましたって言われても納得しちゃうような味。」
言われてみれば確かに、
車のダッシュボードでダシとったラーメン
と聞くと、一度は怖いもの見たさもあって食べてみたくなりますね。
寸胴鍋の底に浮きつ沈みつするダッシュボードをイメージするだけで、そのラーメンのヤバさが伝わってくるようでした。
さすが坂井さん。退屈なこの人生を少しでもスパイシーに生きるコツを知ってらぁ。
少なからずこの話にインスパイアされていた僕。
話を聞いて数日経ったある日、仕事の帰り道で「おー!ここは不味そうならーめんを出しそうだなぁ!」という、いかにもな出で立ちの店を発見しました。
僕に選択の余地はありませんでした。
自転車を路肩に停めて、スライド式のドアーを開きました。
ほう…なるほど。
カウンターのみ8席ほどの店内。
ヤニまみれの壁。
お客の姿はないものの、無造作にカウンターに置かれた、スポーツ紙、女性週刊誌の類。
片付けられていない、吸い殻が入りっぱなしの灰皿。
夏場の湿気をたっぷり吸い込んだ、椅子の上の座布団。
うむ…、これはなかなか(まずいらーめんを)期待できるな。
「あいよ」の一声でご主人さんが出してくれた、麦茶(らしき飲み物)を一口。
これがなかなかの代物で、シケモクみたいな味がしたんです。
こんなに喉が渇いてるのに、こんなにすすまない飲みものがあるのか!ほんとフツーにシケモクの味がするんだけど…なんなのこれ。
ということですから、否が応でも
らーめんに対する(マズさへの)期待は膨らむばかり。
店内のテレビで放送されていた「24時間テレビ」を見るともなく見て、この番組から僕が個人的に受ける独特の胡散臭さの正体は何なのかを、考察しているうちにらーめんが目の前にやってきました。
一目みた瞬間に恋に落ちる事を一目惚れと言いうくらいですから、
一目みた瞬間にアマゾン川を思い浮かべる事はさしずめ、「一目アマゾン」とでも言いましょうか。
このらーめんを見て僕は人生初の「一目アマゾン」を経験しました。
めちゃくちゃ濁ったスープ。ほぼ、泥水。ヤバい感じがぷんぷん。
半分スープに沈んでるチャーシューが、クロコダイルの背中のよう。
スープの上に玉になっている小ねぎはマングローブのよう。
一つのどんぶりで、これほどまでにアマゾンが表現されている事に感服。
僕の中で、ストレートに「アマゾンらーめん」と名付けたその一杯は、皮肉にもストレート麺でした!やかましわ。
この時点で、期待通りの(マズそうな)らーめんに出会えたことにホッと胸を撫で下ろし、気になる一口目。
正直言って、残念ながら意外とうまかったです。うまかったのに残念なのも初めてのこと。
しょっぱ過ぎるなぁという感じはあったんですけど、少なくとも「アマゾン」のレッテルを跳ね返すだけの美味しさは備えていました。(自分で勝手に貼ったレッテルな!)
ただ、このしょっぱさがくせ者。
食べ始めはまだ良かったんですけど中盤以降ジワジワとかなり効いてきまして、水分を摂ろうにも待ち構えてるのは、さきほどのシケモクウォーターなので、水分補給を断念せざるを得ない状況。
結局この、アマゾンとシケモクの一筋縄ではいかないコンビプレーに翻弄されて、完食はしたものの喉カラッカラの状態でお会計に臨むことになりました。
「まいど〜!600円です〜!」
「じゃあこれで」
と、1100円おかみさんに渡した僕。
「ありがとうございました!お返し500円ね〜!またお願いね〜!」
って、100円玉5枚かよ!!
ごちそうさまでした。
p.s
アマゾンらーめん気になる人は個別に連絡ください。
(完)
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